
移り変わりの著しい時代をすこやかにしなやかに生き抜くために。バランスのとれた真のウェルネスへ誘うべく、マインドフルネスをはじめ、美容、養生、生き方など、今すぐに役立つTIPSを様々なアプローチでご紹介します。
いま話題のマイクロアグレッション。大富いずみ監督が学びになった作品をオススメ
“無自覚な暴力とそれが埋もれていく瞬間”を題材にしたショートフィルム作品『SHIBUYA,TOKYO 16:30』が話題を集めている大富いずみ監督。自身の価値観をアップデートした2冊の本、そして、人が持つ自覚のない偏見や差別についても考えさせられたという作品をご紹介します。
『聖なるズー』濱野ちひろ著

文化人類学におけるセクシュアリティ研究に取り組む濱野ちひろさんが、ドイツで出会ったズー(動物性愛者)たちと寝食を共にしながら、彼らを知り、理解しようとした真摯な過程の記録です。自分自身の中にいかに無自覚な偏見が隠れているか、いかに社会によって形作られたものだけが真実だと思うことが怖しいことかということに気づかせ、自分の世界との関わり方そのものも全く違うものにしてくれるような一冊です。はじめは未知の世界への不安や抵抗感を持ちながらも、ご自身で相手と関わり理解しようとする濱野さんの濁りのない姿勢が素晴らしく、自分も生きていく上で見習いたいと心から思います。
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』上間陽子著

沖縄で未成年の少女達の調査・支援に携わる上間陽子さんが、夜の街で働く少女達の個人史を、聞き取り調査をもとに書き記した記録です。一人一人の経験や痛みはそれぞれ固有のものであるにも関わらず恐ろしいのは、属性でまとめられてデータ化されたりひとまとまりに語られた記事やニュースばかり読んでいると、気付かないうちにその中に心を持った生身の人間がいるというリアリティが薄れていってしまうことだと思います。この本は、その本来当たり前であるはずのことを思い出させてくれると共に、個人の体験を記号的に捉えることがいかに暴力的かということに改めて気付かせてくれます。一切ジャッジすることなく少女達と関わり彼女達を語る上間陽子さんのあたたかさに何より自分が救われ、読み返すたびに、自分自身の世界や他者との関わり方を振り返らされ、背筋が伸びる想いがします。
『ヴェラ・ドレイク』 マイク・リー監督

1950年代、中絶が法律で禁止されていた頃の英国で、望まない妊娠をした女性達を非合法に助けていた主人公の物語。直接的な暴力そのものがテーマとして描かれた作品ではありませんが、人間が生き方を選択する自由が、いかに同じ人間が作り上げたにすぎない「道徳観」の下で抑圧されてきたかを改めて思い知らされると共に、今の時代を生きる自分たちも、思考停止して権威や社会通念に従うのではなく、何が正しいことなのか、自分で感じ考えることをやめてはいけない、と改めて思わされる作品。派手な仕掛けはなくても俳優の身体や表情にあらわれる内面の嵐に見入り、心を揺さぶられる作品です。
『アンビリーバブル たった1つの真実』リサ・チョロデンコ監督ほか

レイプ被害を虚偽申告だと疑われた少女の実話をもとにしたNetflixオリジナルのドラマシリーズです。性暴力被害者の痛みがいかに理解されづらいものか、いかに周りの人間が全く無自覚に被害者を追い詰めているのか、ということを思い知らせてくれた作品。この作品を観たある女性がSNSに自身の幼少時代の性虐待被害の告白と共に、「きちんと正義がなされた物語が、多くの人に届くプラットフォームで、こんなにも美しく繊細に語られたことに勇気づけられ希望を得た。こういう作品が波紋のようにサバイバー達により良い人生を生きる力をくれる。何年も声を上げずにいることはとても苦しく痛いこと。なぜなら『(性暴力とは)背骨に刺さった銃弾のように、受けた人間が永遠に抱え続けるもの』だから」と語っていたことが、深く心に残りました。
『Uncomfortable Conversations with a Black Man』

日本語に訳すと「ある黒人男性との気詰まりな会話」というタイトルの動画シリーズで、日本でもYouTubeから視聴することができます。ジョージ・フロイド事件の二週間後に始まったこのシリーズは、元NFL選手エマニュエル・アチョ氏が、変化の為に行動したいがどうしていいかわからない、という白人の友人達の声に応えて、まずは正しく知り理解する為の『対話ができる安全なスペース』として生み出したものです。離れたところから憎み合うのではなく、理解し合えることを信じ、勇気を持って向かい合い対話する。終始穏やかに丁寧に、的確なアナロジーを使って白人達の無自覚な人種差別を説き明かしていくアチョ氏にも、自身の無知と無自覚な偏見を認め、気詰まりな対話から逃げずに向き合おうとする白人のゲスト達の姿勢にも、学ぶことが多いです。
大富いずみ/映画監督
映画製作会社に勤務しながら様々な映画作品に英日通訳や演出部などで参加したのち、独立。長編映画のほか、ショートフィルムやWeb CMの演出も務める。
Instagram @izumiohtomi
Instagram @shibuyatokyo1630

Text_ Yuko Homma
Editorial Direction_ Little Lights