ものづくりの背景に敬意を払いクリエーションを讃える。サステナブルをテーマに、アーティストや起業家をはじめ想いを共有する挑戦者たちを紹介。彼らのヴィジョンから自分らしいスタイルのヒントを見つけ出します。
満ち足りるファッションの世界へ
サステナブルなD2CプラットフォームEQUALANDから新ブランドEQUALAND TRUST AND INTIMATEが新たにローンチ。クリエイティブディレクター安部真理子が率いるチームのヴィジョンとは。
安部真理子は現在、某ジュエリーブランドのデザイナー兼ディレクターでもある。都会的かつ有機的なデザインと、良好なコストパフォーマンスで人気を博すD2Cブランドとして、持続可能性の高いプロダクトや社会貢献に積極的に取り組んでいる。
安部真理子が人生で最初にキャリアの駒を進めたのは、海外のインポートアイテムを取り扱うセレクトショップ。スマホが普及した現在と違って、ファッションと文化の狭き入り口として存在していた当時のセレクトショップにて、バイヤーとして日々最先端に触れながら流行・品質・ニーズのあり方を身体に染み込ませた。その後、顧客満足度の高いラグジュアリーブランドではMDとして良質なプロダクトとアティチュードを学んだ。そして2012年、ECの手法を身につけるために転職。
「当時はまだECが下火だったので社内でも肩身の狭い思いをしました。商品を選んだり商品説明を書いたり出荷作業をしたり。集客から分析までひと通り自分で手を動かしてやってきましたからユーザビリティには結構うるさいんです、私」
徹底的にECのノウハウを学び、2018年に立ち上げたジュエリーブランドARTIDA OUDは瞬く間に成功を納めた。並行して彼女は自らに新たなミッションを課す。地球環境を改善する服づくりと、そのために努力する生産者への賞賛を形にしたい。いくつもの企業の扉を叩く中で出会ったのが、株式会社ワンオーの手がける、EQUALANDだった。
彼女がつくる服に流れるのは、旅を彷彿とさせるオリエンタルなムード。それは、若い頃訪れたインドでの体験がインスピレーションのベースとなっているせいだという。
「元々インドが好きだったので、大学生の時に3カ月ほどボランティアに行ったんです。学校で小学生や中学生に英語・地理・歴史を教えるという簡単なもので、校長先生の家の屋上で寝泊まりしていました。チェンマイから車で6〜7時間かかるところだったんですが、本当に貧しい村だったんです。南に行くほど田舎で、Helloも通じないし私のことを白人だと勘違いしていて衝撃的でした。でも私を快く迎え入れてくれて、授業そっちのけでお祭り騒ぎになるほど。探究心に溢れた子供達の輝く目は今でも忘れられません」
目の前にある貧困に愕然としながらも、街に溢れる色彩の豊かさ、服飾文化の多様性といった様々なインパクトがデザイナー安部の素地を形成した。
「全てがインスピレーションでした。街の人々がゴールドをいっぱい身につけていたり、鈴のアンクレットをチャリンチャリン鳴らしながらつけていたり。そのせいか、私が作ると全部オリエンタルなものになるんですよね。大好きなんです」
豊かな国のファッションサイクルに合わせて、辛い労働条件のもと、多くの労働者の犠牲の上に成り立っているこれまでの服作り。サステナビリティを多く謳われる昨今だけれど、安部にとって持続可能性のあるファッションシステムへの情熱は、インドを訪れた頃から切り離すことのできないものだった。
「サステナブルと言っても一部のものをオーガニックにしているだけの商品も多い。それってどうなの?という思いと、自分でやったとしてもどうしてもそうなってしまうことも目に見えていて。同時に、サステナブルであっても着心地やデザインが良くなければ意味がない。例えば、草木で色を染めたとしても洗濯で色落ちてしまっては商品として成立しないので、薬品に頼るところが出てしまう。すると別の汚染に繋がってしまう。土壌から染めや加工を経て製品になるまで、全てを完全に自然由来で行うことってかなり難しいんです」
そんな中出会ったのがEQUALANDの守り神、自他ともに認める “素材オタク” 坂田英一郎だ。
「坂田さんは休みの日でも当然のように工場に赴き、現場の方々と一緒に作業をするんです。決して叩いたりせず、工場側をすごく大切にするから信頼も厚い。私もいつも生産者に対して利益を循環できるシステムを作りたいと考えていました。だからこそこのプロジェクトを、坂田さんとだったらできるし絶対やりたいと思ったんです」
自然由来に徹底的にこだわり、ケミカルは使わず化学とテクノロジーで解決するのが坂田流の素材開発。色落ちしない草木染め、洗濯機から乾燥機にまでかけられる天然のカシミアにシルク。それらを実現するために坂田氏は40数年、コットン農家の土壌、シルク農家の蚕の桑、糸を撚る機械の仕組みなど一つひとつに向き合い、農家や工場とともに自然で良質な素材の改良に精魂を燃やしてきた。
ファッションに信用を。EQUALANDが掲げるのは、生産過程の透明性をもって作り手側の姿勢を消費者に伝えることでものづくりへの信頼を得ること。それは同時に、受け取り側となる消費者に“選択の意義”を考える機会となる。
人々が何を買うか、何をするか・しないかで成り立つ世の中。自分たちが暮らしやすいこれからの社会・環境のためにまず、するべきことはなんだろう。オンオフのシームレス化が進む今、装いに求める優先順位はおのずと変わってきている。環境への責任・着心地・高揚感・価格帯、全てに納得する選択肢に安部は妥協をしたくなかった。
「元々私は、外でも素敵に見えて、家にいてもすごくリラックスできるような服があればいいなと思っていたんです。それに今、温暖化で夏がすごく暑くて服が着られない。気候に合わせたファッション業界の変化がもっと必要なんじゃないかと疑問を持ったんです。
ポリエステルのキャミソールを肌に着けるよりも、リネンで空きのある風通しが良いトップスの方が涼しい。ベタベタする日本の夏は、もはや天然素材じゃないと着られない状況にあると思います。空輸による環境負荷も鑑みて、改めて日本の素材を使って国内生産に挑戦してみようと思いました。
あとは価格。ジュエリーの原価率がめちゃめちゃ低いことを知って、世の中の価格って一体なんなのって。もっと世の中の常識を崩すぐらいの価格にすれば良いって思ったんです」
価格競争がベースになり、システム自体が疲弊したこれまでの洋服作り。上質かつ高価なハイブランドのように品質とともに価値のあり方を再定義する切り口となるのが、D2Cだった。
EQUALAND TRUST AND INTIMATEの販売手法であるD2Cとは、Direct to Customerの略。単なるネットショッピングとは一線を画し、ショッピングから購入後の体験までじっくりと消費者に寄り添う。SNSを始めWEB媒体でブランドの世界観とメッセージを発信し、高まる想いを直接的なやり取りですくいあげる。ファンを増やし、より高いニーズに応えられるという利点だけでなく、オンライン販売を主とし中間業者をなくすことで価格を限界まで下げることができる。
「真面目に生産者と生きていきたいっていうことを日々伝えていきたいと思っています。このクオリティでこの価格が実現できるからくりを有効活用して、細やかな声に耳を傾けていきたい。価値観を共有していけるお客様とともに楽しんで歩んでいきたいですよね」
安部が手がけるジュエリーブランドではドネーションを積極的に行なっていて、すでに1400万円を達成しインドでの学校設立のプロジェクトが進んでいる。EQUALAND TRUST AND INTIMATEでも衛生的な水の供給や野生生物の保護に向けたドネーションプログラムを進めている。
「後世に美しい環境や日本の素晴らしい素材技術を残すことも私たち世代の責任。後継者不足という大きな問題に対して、職人さんたちの素晴らしい技術を残すためにもできる限り貢献していきたいです」
EQUALAND TRUST AND INTIMATEが取り組むこれからの服飾文化は、消費者と生産者が手を取り合ってこそ実現する。装いと環境に対する価値観を共有するすべての人と共に明るく美しい未来へ向かっていきたい。
安部真理子
EQUALAND TRUST AND INTIMATE クリエイティブ・ディレクター
ラグジュアリーブランドのMD・バイヤーを経て、2018年4月、ジュエリーブランド「ARTIDA OUD」を立ち上げ、D2Cのビジネスモデルを構築する。同ブランドのディレクター兼デザイナーとして活動を続けながら、フリーランスとしてファッションブランドのブランディング及びマーケティングコンサルタントをおこなう。2020年8月より株式会社ワンオーの新事業「EQUALAND TRUST AND INTIMATE」のクリエイティブ・ディレクターに就任。
Photographer_ Natumi Ito
Interview_ Yuka Sone Sato
Editorial Direction_ Little Lights