ものづくりの背景に敬意を払いクリエーションを讃える。サステナブルをテーマに、アーティストや起業家をはじめ想いを共有する挑戦者たちを紹介。彼らのヴィジョンから自分らしいスタイルのヒントを見つけ出します。
環境負荷なく買い物を。斗々屋が目指す量り売りから始める消費循環
増え続けるフードロスや容器包装によるゴミ処理の問題。2015年の日本のシングルユースプラスチックの量は米国に次いで多く、全体の36%は容器包装。同年の記録では年間800 万トン以上が海洋に流入していて、2050 年にはプラスチックが魚の重量を上回ると言われています。微細となり地球上の水という水に溶け込んだマイクロプラスチックは、私達の体内にも知らずのうち侵入し、一週間でクレジットカード一枚分を摂取しているとも言われています。
さらに日本における温暖化の原因である温室効果ガスは産業部門にて排出される量が殆どを占めています。食品が生産・加工されてから手元に届くまでにに発生する温室効果ガスは全ての排出量のおよそ3割をまかなうほど。そんな中、食物自給率が37%(2018年)しかなく国外に供給を頼っている日本は、気候変動による干ばつや不作の影響をより強く受けてしまいます。食品の価格が上がることで、生活バランスも大きく変わりかねない私達にとって、フードロスをより減らすこと、シングルユースプラスチックをなくすことは、死活問題と言えるほど非常に大切なことなのです。
こういった未来への問題をビジネスで解決するのが、オーガニック食材の輸出入を手がけるPapillon d’Or社長であり斗々屋、nue by Totoyaを経営する梅田温子さんです。2019年12月〜2020年まで、週末の代々木上原に量り売りの実験的ストアをローンチし、環境負荷のない生活様式を提案してきました。パートナーはプラスチックストローの代替品として「のーぷら No Plastic Japan」を立ち上げたノイハウス萌菜さん。今年1月から国分寺のCafe Slow内のスペースに移転したnue by Totoyaは、量り売りで無農薬の穀物や豆類、茶葉、チョコレートなどを購入できる店舗。容器は自宅で使っているタッパーや小瓶など好きなものを。もし忘れても再利用可能なオーガニックコットンのプロダクトバッグや『スタッシャー』などを購入できるシステムです。さらに量り売りの経営システムをプログラム化し、企業や他店舗に提供することで、この素晴らしいエコシステムを広げよう、という心意気に心酔し取材を申し込むと、なんとさらに大きな事業形態が進んでいることが発覚!ディレクターの安部真理子さんを迎えて、セッションが始まりました。
ゼロウェイストな量り売りのスーパーマーケット始動
梅田温子(以下、U):卸事業である会社から小売りにも事業を拡大したのは、モデルショップとしてオープンしたnue by Totoyaが始まりです。代々木公園近くの日曜日のみの店舗を経て、今年1月には、国分寺にお店を開きました。 3年前から、6月にオープンするスーパーマーケット規模のお店の準備をはじめました フードロスを出さないためのアトリエキッチンを併設させて、再加工したり、夜のレストランで提供する、ゼロウェイストレストランのようなコンセプトも加わります。農家から出た売れ残りやB級・C級品などのを優先的に扱い、多すぎたら瓶真空に加工して保存食を作る。それをブランド化して、農家さんに戻したりうちの店で販売するなどして、食品ロスを減らしていくということもプロジェクトの大事な部分です。スーパーマーケット業界で通常出てしまうフードロスをいかにゼロにするかっていう取り組みの一環ですね。
阿部真理子(以下、A):国分寺とはまた別の形態となるんですか?
U:そうですね。今、卸しとノウハウシェアを通じて量り売りのお店が日本全国にできるようなサポートをするという動きをしていまして、そのモデルショップになるのが、国分寺のお店です。新しい形態もどんどん広げて行かないといけないですから、まずはモデルショップを作ってシステムやマニュアルを作って効率良く、どんどん全国にゼロウェイストな量り売り店を展開していける仕組みを作っています。
A:スーパーマーケットはどの辺に作る予定なんですか?
U: 京都です。食品の小売は非常に利益が薄いので、できるだけ初期投資と固定費を低く、さらに世間に発信しやすい場所にしたかったんです。私は、2005年からオーガニックやナチュラルワインの輸出業をしていますが、お客様が京都に多いことや京都府がSDGsや食品ロス対策を推奨していることも大きいです。京都市しまつの心条例という、ゴミ半減を目指す取り組みやエシカル消費を広める取り組みなどに力を入れていると聞きました。
A: 世田谷区は、焼却炉が高性能だからということで全部燃えるゴミです。それで排出する温室効果ガスのを考えると怖いです。
U: スーパーにある白いトレーは洗って返せばいいと思っている人が多いと思うんですが、あれは、結局焼却されることが多いと認識しています。ゴミを捨てるのと一緒です。だからなんのために洗剤とお湯を使って洗っているのか分からないですよね。地方自治体によって焼却、埋め立て、無地のトレーによってはリサイクルをしているようですが、細かい事実が確認ができないことも問題だと思います。
ノイハウス萌菜(以下、N): 確実にリサイクルするためには分別が複雑になりがちですよね。ゼロ・ウェイストのモデルタウンである上勝町では、分別は45種類に及ぶそうです。困難と思う人が増えそうですが、例えば、写真に撮ったらゴミの分別をおしえてくれるアプリとか作れたらいいですよね。楽しいゲームみたいに分別ができる。海外ではあるみたいです。
U: ペットボトルの再生は増えていますよね。本当は作らなければいいのにと思いますが、一回使い捨てるよりは良い。ペットボトルを100%リサイクルして食品などを入れられるパウチを作っているオーストラリアの会社に今注目しています。ペットボトル100%の印がついて、お湯でも洗えるし、アルコール消毒もできる。チョコレートやクッキーなどの油を含むものを入れても平気なので、コットンの袋ではまかないきれない部分に再生ペットボトルを使用するのはいいとおもいます。洗濯によるマイクロプラスチックの流出は避けられないようですが、まずはプラスチックの袋を一回ずつ捨てるというサイクルを早急にやめないといけない。メーカー側は製品がお客様に届いた後にどうなるかもよく調べて環境負荷のより低い素材や方法を選ばないといけないと思います。
A: アパレルでは、日本環境設計さんがポリの入った洋服からポリ繊維の樹脂を取り出して、ポリ繊維に再生するという技術を持っていて、回収から製品までの作業も行っています。家庭でCO2を出さないとか、科学的な処理でそれができるというのが新しいらしくって。EQUALANDでも使いたいと思ったんですが、洗濯によるマイクロプラスチックの事を考えて、天然素材のみを作ることにしました。
U: 素材で言うと、最近おもしろかったのは、パイナップルの繊維やバナナの皮でできている生地。斗々屋ではお店の内装ももちろん、環境に配慮した設計を目指しています。京都店の立ち上げの設計から、設計者さんたちが話してくれて藍染を使ったり、バナナレザー同士を接着剤代わりにしたりしたりとアイディアをたくさん出してくれています。
A: 最近は、食は人類にとって欠かせないけれど服はもう作らない方がいいんじゃないかとさえ考えてしまいます。
N: ゼロウェイストの活動をしていて思ったのが、女性の賛同者がすごく多いこと。可愛い服だったり、化粧品を買いたいけど、サステイナブルのことを考えると、選択肢が少ないなって。だからみんなすごい葛藤があるんじゃないかとおもいます。
U: うちもサステイナブルを根幹にする上で、なぜ輸入なのか・地産地消を追求しないのかとよく聞かれます。CO2排出の観点でとらえた場合ですが、物流業界が再生可能エネルギーに切り替わることがまず急務ですよね。地産地消ってエコロジカルに聞こえますが、私にとってはただのエゴイスト論にも感じるんです。つまり、ある一定の地域の人たちがローカルで全部賄うことは素晴らしいことですが、同時にそれは人に分けないということ。自分のことは自分でなんとかしなければいけないというシビアさもある。そこで災害などが起きたときに、他の地域と元々コミュニケーションが取れていなかったら、孤立してしまいかねない。
ですから、誰一人取り残さず、みんなを平等で平和をめざすのなら地産地消だけでは難しいと思うんです。地域によって得るものが違います。日本は四季があって比較的恵まれた環境ですが、国内でも季節や地域で特産物がありますし、生成困難な状況がある。他国で見ると、教育が行き届いていないところは、やり方すら知らない所も多い
A: 京都のお店ではどのような商品を販売する予定ですか?
U:食材の選択軸は「ゼロウェイスト」、「オーガニック」、「フェアトレード」です。京都店ではトイレットペーパーから、食器洗剤、掃除用品、お惣菜まで全部です。普通のスーパーマーケットのように、ゼロウェイストで生活必需品が揃う場所を作ります。そのために、生産者さんには私たちからゼロウェイストのルールを申し上げて、必要に応じて、新たに梱包方法を開発してもらっています。納品方法もできるだけゴミが出ないよう、通い袋や通い箱を使えばゴミを出さないことは可能です。生産者さんからは、慣れれば楽という声が多いですよ。今まで小分けにしていたものを大量に一気に出せると今まで小分けにしていた時間も省けます。
A: 食品だと衛生面を日本の方はものすごい気にするかなと懸念されます。
U: 衛生面ではイメージの問題も大きいかと思います。実際、量り売りはそんなに触らないんです。スーパーでパッケージされているものの方が不確定多数がベタベタ触ってますから。まずよく考えて紐解いて見たら矛盾していることがすごく多いんですよね。
考えて買う消費者を育てる、スーパーから学ぶ教育
ー考えて買う消費者を育てたいと以前のインタビューで梅田さんがおっしゃていました。人の意識は社会の基盤になりますので、これを事業として利用しやすく展開することはとても重要。これからの日本の消費形態に良い影響力になるといいなと期待しています。ノイハウスさんは日本で『の〜ぷら No Plastic Japan』を立ち上げましたが、日本の消費活動における諸外国からの遅れをどのように感じていますか?
N: 私は今日本に来て4年半になります。それまでドイツとイギリスに住んでいて、やはり日本と意識の差を感じていたのでこういった活動をはじめました。うちのチームのメンバーも、海外での経験があって、日本でももう少し環境に優しい生活ができるように何か動いていきたいという思いが強いメンバーが多いです。
A: 若い世代はアクティブにSNSなどで発信している人も多い。日本と海外の若者を比較してみると、外国だともっと通常に話されてたりとかするんですか?
N: 個人的にはそう思います。社会問題についての話はタブーではないし、意識が高いとかそういうのでもないので、日常的にそういう話題になりますね。
U: 教育がやっぱり違うかなと思います。今中学生の娘が2人いるんですけど、小学校のころから毎週火曜日に、環境の先生がきて今世界がどうなっているかを話すんです。環境学の先生に話をされてから、スタイリストになりたいって言ってた娘が、モードの仕事はやめるって。じゃあ何やるのって言ったら、海の生物がプラスチックで傷ついたりするのから守るような仕事をとか言い始めました。それぐらい環境に対する教育に熱を入れてるんですよね。
スウェーデンでは小学校のときに13のゴミの分別を覚えるらしいんです。そういう子たちが大人になった時には分別は当たり前になってる。お店には子どもを連れて買い物に来て欲しい。子ども達が自分で、袋を持ってきてるお菓子を買ったり、ゴミが出ないお買い物を小さい時から体験してもらえれば、大人になってもそれが当たり前になるんじゃないかなと思っています。
さまざまな力が集結してこそ達成できる未来づくり
ー食品や日用品を取り扱う量り売り形態は日本初となります。道を切り開くための困難に対してどのように切り抜けていますか?
U: いろんな業界が変わらないと社会は変わっていかないですよね。うちは寺岡精工っていう秤メーカーさんにオフィシャルパートナーになっていただき、ゼロウェイストを実現できる量り売りのためのシステム作りをしてもらっています。ゼロウェイストの導線作りやスーパー運営は、彼らの開発がないと成り立たない。お客様にとって便利じゃないと、自然にライフスタイルに馴染んでいきませんから、こういうメーカーさんが開発してくれるおかげで、私たちは実現できるんです。
設計も同様で、NoMaDoSという会社が担当してくださっています。業界によって知識は全く違いますが、それぞれの専門分野の人たちが同じゴールに向かってくれることが一番だなと思っていて。私たちに関わっていく人たちが各々の意識を変えていく、そういうスパイラルを作るのが斗々屋の目的なんです。それを、量り売りから始めていく。
アパレルさんとできればって思っていたのが、容器や袋の開発です。それなりに便利なものがやっぱり欲しいんですよね。今欲しいのは、段ボールに代わる、分厚めの素材でできた通い箱。卸用に使いたいので、軽いし、たためることもできれば、帰りは畳んだまま持ち帰れて非常に便利。食品だけに関わらず、いろんなものに使えると思いますし。
A: EQUALANDでは撥水や抗菌に特化した生地などを開発したり、すでにあったりするので使えるかもしれないですね。石で染めれるっていうのも今開発していて、結構しっかりと染めあがるんですよ。
U: 染め物でいうと、大量に輸入されるような安価なワインって廃棄される在庫がすごくあるんですよ。そういう廃棄されるワインも染めるのに使えそうですね。
ー今までの業務形態外のことを大規模でゼロからはじめるに至ったのは、どういった経緯があるんですか?
U: 最初は大企業から動かせたら最高だなと思っていて、ビジネスのプランニングをプレゼンしていたんです。いろんな企業をだいぶ周りましたけど、全然ダメで。だから自分でコツコツやるしかないなと。モデルショップでモナちゃんを呼んで手伝ってもらうようになったんです。輸入の会社の儲けを斗々屋の事業につぎ込む感じで最初ははじめました。
以前、無印良品さんが量り売りを始めると聞いてすごく期待してたんですが、結局は1つ一つをプラスチックで包装していた。量り売りというだけで、得にゼロウェイストはうたっていないのに、私たちが勝手に量り売りならゼロウェイストって思っていただけなんですけれどね。むしろプラスウェイストになっているのを見て、もう大企業に期待するのはやめようって思って。
京都のお店では、最先端テクノロジーを採用して、お客さんが便利に、ゼロウェイストなライフスタイルを取り込めるよう考えています。 一回ゼロウェイストの生活に慣れると、ハマっちゃうと思いますよ。ゴミ出るのが疲れちゃうんで!
A:新しい生活様式! 気候レジリエントな復興である、グリーン・リカバリーへの選択肢としてもいち早く取り入れたいですね。
<nue by Totoya>
〒185-0022 東京都国分寺市東元町2-20-10(カフェスロー内)
https://www.nuebytotoya.com/
梅田温子/Papillon d’Or・株式会社斗々屋 社長
料理人として渡仏し、2005年に日本向けのオーガニック食材やワインの会社Papillon d’Orを起業。環境に優しい食材のプラスチック包装に矛盾を感じ、2017年に量り売り事業「斗々屋」を始業。2019年にゼロウェイストのモデルショップとしてnue by Totoyaをスタート。
https://totoya-zerowaste.com/
ノイハウス萌菜/コミュニケーション・コンサルタント / のーぷら No Plastic Japan 代表
2018年、プラスチックストローの代替品となるステンレスストローブランド「のーぷら No Plastic Japan」を設立。環境保護活動や、それに繋がる行動を発信しながら、企業との連携プロジェクト、コンサルティング、広報などで循環型のビジネスやライフスタイルを提案している。現在はJ-waveにて月〜木09:00-13:00にパーソナリティを務めるなど幅広く活躍している。
https://noplasticjapan.com/
出典
https://www.jccca.org/download/13335
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/single_use_plastics/pla_report.files/itcpp_houkokusyo.pdf
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy_2020update.files/zero_emission_tokyo_2020update_report.pdf https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20200415-00173392/
Text_ Yuka Sone Sato
Editorial Direction_ Little Lights