
ものづくりの背景に敬意を払いクリエーションを讃える。サステナブルをテーマに、アーティストや起業家をはじめ想いを共有する挑戦者たちを紹介。彼らのヴィジョンから自分らしいスタイルのヒントを見つけ出します。
自然が教えてくれた循環するライフワーク。ニキ・ローレケさん
EQUALAND JOURNALで人気の「THINK PIECE」記事のタイトル画像を描いてくれているニキさん。草花や動物など自然のモチーフとともに、環境問題や地球温暖化などに向き合いながら力強いメッセージを発しています。ドイツ人の父と日本人の母に生まれ、世界中を旅するなかで新しい扉が開いていくうちに、自分らしい尺度を見出したそうです。聞くもののこわばりを解き放ちパワーをもたらしてくれるような不思議な力にあふれるニキさんの佇まいは、大自然の強さにどこか似ています。
ー小さな頃はどのようなお子さんでしたか?
問題解決が好きだったのは覚えています。最近、小さい頃に描いた絵本を見つけたんです。海が汚れたらどうなるとか、人間と植物と動物が連帯したらポジティブな未来が作れるという内容が描かれていました。当時は無意識に漠然と気になっていたんだと思います。
ードイツの教育はどのようなスタイルだったのでしょう?
物事を変えたかったら自分でやりなさい、という教育を受けた気がします。日々、自分の意見や気持ちを表現して他の人と議論し合うことでなぜ自分はそうしたいのかを問い、自己表現や摩擦を学ぶ。そのおかげか、何かを変えたいなら自分から動かないと変わらないと昔から思っていました。
ー日本の画一的な教育とは違いを感じます。
実は、社会の成り立ちを教えてくれたのは週一回の日本語の教諭でした。当時起こっていたイラク戦争について授業中にどう思う?と聞かれるんです。 環境の良い日本にいても関係ないでしょう?と。でも石油が関わっているから、車に乗るならあなたにも本来関係していること。地球の反対側は必ず繋がっているんだよ、といつも気付かせてくれていましたね。自然や感謝の気持ち、そこにある環境が当たり前のことではないといったことは全て、ドイツ学校ではなくてその先生からでした。

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ーNYからオーカス島での生活を経験し、様々なことを見直すきっかけになったとか。
トレーラーハウスにベッドだけ、寝る以外全て外の自給自足生活でした。キッチンもシャワーもトイレも外だから夜などは特に寒い思いもしましたが、大自然を眺めながら用を足し、それがコンポストになり土の栄養になります。季節が変われば鳥が来て卵を生み、カエルが鳴き始め、花が咲いたらハチが来る。そういった自然の循環の中で暮らすことで、物事のながれや成り立ちを体感として全て学ぶことができたんです。約一年間の生活ですべての価値観が変わりました。
ーその後も多く旅をしていますが、作品やアーティストとして影響を受けたのは?
たくさんありますが、インドは帰りたくないと思うくらい好きでした。計画をしてもなぜかそうならず直感に従うしかない、偶然だらけの毎日の結果、物事はなるようにちゃんとなっているからその波に乗ったほうがいい、と確信できました。私はもともと下絵のスケッチができないタイプで、どうやったらスケッチが上手になるんだろうとか悩んでいたことがあったんです。でもインドで暮らしてから、そうじゃなくていいと。魂というか生き物として行くべき道をただ行けばいい、ということが頭ではなく心と体でわかった気がします。

自然を大切にすることは自分を大切にすること
ーニキさんが自然を大切にしないといけない理由は何だと思いますか?
自然を大切にしようというよりは、本来生き物として自然を大切にする生き方が普通であり自然なはずなんです。人間以外の生き物は、循環式の生き方なので地球を良くする存在。本来人間にもそういう役割があり、生まれてきたんだと思うんですよね。更に多様な感情を持つ人間は、自分が感じることを言語やアート、音楽などで表現ができるので、自然に対して「すごいな」「綺麗だな」と感じることが私たちの役割なのかなと想像したりもします。感謝されたり、褒められたりすると人間は嬉しいしウキウキするから、自然もきっとそうなんじゃないかと思います。
「自然」という文字を調べてみたら、昔は「じねん」と読んでいたらしくて、「自ずから然らしむ(おのずからしからしむ)」、簡単に言えば「あるがままの状態」という意味があったそうです。自然が人間と別のものという考えより、人間もその一部だからこそ自然が破壊されると人も破壊されてしまうし、逆に自分をケアして大切にすることは自然を大切にすることにも繋がる。
環境問題に対する経済成長の問題などがよく挙げられますが、そんなことより地球がだめになっちゃったら、私たちは存在できなくなる。お金儲けが好きな企業だって、それをする場所がなくなったら何もできなくなるわけだから、みんなで守らないといけないものなんじゃないのかなって思います。

ー高知でエキシビションをしたときに画材がないからゴミを集めて制作したり、その土地に根付いた作品をつくっていましたね。物事への向き合い方に対して、土着とか接点とかをすごく大切にされています。
不自然なことが当たり前の世界になっています。例えば日本のスーパーにアボガドがあんなに並んでいるのは、本来とても不自然なことだけれど麻痺してしまっている。ビーガン食や環境系のものが流行っていますが、大豆ミートにはアメリカなどから輸入されているのも多く、中には大豆農園を作るためにジャングルが壊されたり、空輸するのにエネルギーを使っていたりしている。やはり、一番身近にある野菜をありがたくいただくのが一番普通のこと。だから、食生活も私生活もアートもどんどん身近なものを選ぶようになっていますね。
高知では、画材屋さんがないと気づいた時、どこまで画材を遠くから買わずにアートが作れるかっていうのに挑戦してみたくなったんです。いろんな物が捨ててある資源ゴミの日がめちゃくちゃ楽しみでした。無いって、物事の見方が変わるからよりクリエイティブになれるんですよね。今こそ、なんでも簡単に手に入ってしまうことが危険だ、ということを改めて認識する時なんじゃないかと思います。
ー自然の循環や節度をわきまえず、過度な欲求に任せたため大量生産・大量消費を生んでしまいました。現在掲げられている環境問題で最もきになることは?
環境問題はいろいろありますがやはりゴミですね。私は、シンプルに自分からゴミが出ないようにするのが趣味というか楽しいというか。土が全てだと思っていて。食べ物は土で育つし、死んだら土に還るし、農薬や化学物質により土が悪くなると全てがどんどん悪くなるんですよね。オーカス島に住んでからなので約6年前から、生ゴミを捨てない生活を心がけています。家ではもちろん、旅をしていても自分が食べて出た生ゴミはコンポストします。食べたものが微生物などの働きにより土に還り、より栄養の高い土に変身するという自然の循環が永遠に続いていく。毎回コンポストに入れた生ゴミが消えて土になっていると、この素晴らしい地球のサイクルに感動するし、気持ちが良い。それから、とにかくプラスチックの問題もどうにかしたいですね。絶対に使わないのは今の段階では無理だけれど、使わなくていいよねっていうケースはいっぱいある。小さなことですがどんどんアップデートを地味にしていくのが楽しいですし、地球レベルでそういう問題に関わることができたらもっと早く物事が良くなる気がするんです。そういうのを学校で教えてほしい。

ー学校では必須科目になり、大人たちもエデュケーションに触れる機会は増えています。一人ひとりが発信するインパクトも大きい時代かもしれません。
発信だけでは何も変わらないと思っています。むしろ発信していない、ひとりのときに何をしているかということが大切ではないかなと。これまで私が影響を受けた人たちは、特に発信してきた人ではないですが、彼らの存在が十分なメッセージとなっています。発信と行動が矛盾せず、本などで得た知識ではなくて主に自分が経験して得たことを発信することを心がけています。一番パワフルなメッセージは、自分の思い描く理想の世界を自分が体現できていること。まだまだその世界には辿り着いていませんが(笑)、SNSなどのツールを利用して人と繋がったりプラスになることは大切なので、それらをバランスよくできたらなと思っています。
ーEQUALAND TRUST & INTIMATEでイラストを描いていただいています。ご紹介いただいたTHINK PIECE初回の執筆者、佐久間裕美子さんとは長くお知り合いなのですか?
裕美子さんとは以前、NYのGreenpointに住んでいた頃、近所に住んでいたのでよくお茶をしていました。とにかく私が昔からゆみさんが大好きで、彼女も自分の経験から想いを本にしていてすごくリスペクトしている方なので、今回一緒にできて嬉しかったです。

ーEQUALANDの服を着用いただいた感想を聞かせてください。
今、サステナブルが流行りのように扱われてしまって、表向きだけエコのふりをしている服も多くがっかりすることも多いです。EQUALANDは直接触れてみて、感触が良いのもそうですが、ケアされてきたものの良いエネルギーを感じます。信用タグに関わった人の名前を載せているのもすごい、普通は隠したがる部分ですからね。こういった取り組み、今では素晴らしいと思いますが、例えば10年前NYでただただファッションが大好きで、お買い物をして素材や製造国をあまり気にしていない時に、サステナブルな洋服を買いなさいと言われても、その時は受け入れられなかったと思うんです。何においても無理に人に押し付けるのはよくないので、楽しい!と思う人たちが自然と集まって価値観やワクワクが似ている人同士が徐々に増えていって、自然な流れで支え合っていけたらいいなと思います。
ニキ・ローレケ/アーティスト
東京出身。ドイツ人と日本人の間に生まれる。東京、ロンドン、ニューヨーク生活を経て、ワシントン州にある小さな島に拠点を移す。森の中で自給自足の生活を経験し、アートを通して現代の高まる環境保全に取り組もうと決意する。島生活後、世界中を旅し、2020年から日本に拠点を置く。国内外のクライアントワークの他、アートは社会変革や平和的な活動のためのツールであると考え活動中。
Instagram @nikyroehreke
Photographer_ Kaori Nishida
Interview_ Yuka Sone Sato
Editorial Direction_ Little Lights