ものづくりの背景に敬意を払いクリエーションを讃える。サステナブルをテーマに、アーティストや起業家をはじめ想いを共有する挑戦者たちを紹介。彼らのヴィジョンから自分らしいスタイルのヒントを見つけ出します。
サステナブルをスタンダードへ。サービスで革命を起こすSANU本間貴裕のポジティブなバランス感覚
広がり続けるサステナブル事業。様々なサービスが乱立するなか、人々のニーズの斜め上のビジョンを牽引しながら実装に向かうのが、今話題の<SANU>だ。セカンドホーム・サブスクリプションサービス『SANU 2nd Home』は自然へのアクセスを手軽にし、より調和の取れた都市生活を提案するという試み。人と自然との調和というテーマは、成長が欠かせない資本主義社会の中でパラドックスを生みながらも私たちが直視し、解決するべき問題を内包する。「活動するほど自然へのプラスになるような暮らしの仕組みをつくりたい」と、真のサステナブルを追求する起業家、本間貴裕氏に話を聞いた。
ー前職のBackpacker’s Japanでは、多様性を盛り込んだホステルやサービスを立ち上げられました。蔵前や兜町など自然と街自体のムードを作り出した発信地的存在ですが、これは学生時代のバックパッカーとしての経験が元になっているそうですね。本間さんの原動力は、帰国後の学生団体活動に起因しているかと思うのですが、当時の原体験をお聞かせいただけますか?
よく調べましたね(笑)社内の近い存在も知らない人も多いですよ!? 学生団体は2つやりました。街をハックして賞品をかけて鬼ごっこをする「鬼プロジェクト」と、「世界は広いぞ、目をひらこう」というコンセプトで行った「Feel」です。福島大学の教育学部の卒業生には公務員や教諭が多いのですが、先生になる人って、視野を広く持って人に教えることが仕事なわけで、指導要領のその先で何ができるかが大事だと思うんです。20歳でオーストラリアへの留学を通して、自分の正解が揺らぐことをたくさん経験しました。正解が揺らぐことって、特に先生になるような人たちが体験するべきことだから、みんな旅をしようぜって学内に広げていたら、休学者が急増し過ぎて学長に止められてしまったんです(笑)。それなら、外から世界の広さを連れてこようというのが「Feel」がやろうとしたことです。
ー具体的にどのようなことを?
インドから児童労働をしている子供達を福島に呼んで一緒に遊んだり、児童労働が存在していることの話をしてもらいました。国境なき医師団で活動している方をお呼びして音楽といっしょに当時の状況を伝えてもらうような公演をしたり、実際に旅に出た学生を呼んできて対談で世界の広さや体験談を学生にシェアすることをメインに活動していました。「先生たちになる人は広い世界を見た方がいい」っていうのが優等生的な理由ですが、「広い世界見た方が楽しいぜ」っていうのをみんなに伝えたかったっていう方がダイレクトな理由ではありますね。
ー「鬼プロジェクト」に関しては、自治体を盛り上げたいという考えがあったんですか?
それがまさに優等生的なコネクションですが、ダイレクトな部分では、オーストラリアで1年間ひとり旅をしていたら寂しくなっちゃって人と何かをやりたいなと思ったことがきっかけです。それまでチームワークが苦手だったんですが、個人よりもチームを組んで盛大にやりたかった。なんでもいいから鬼ごっこでいい。でもせっかくやるならと町中をハックしようと。さらに地元の企業スポンサーや全国放送の枠をとってきて、市役所と警察署も巻き込んで。駅前のストリートを封鎖して子供と大人総勢200人で、スキーのワールドカップでも活躍したMCやDJを呼んで音楽を流して、全国放送で福島市のプロモーションをしたんです。その時の代表が僕で副代表が宮嶌智子、クリエイティヴと広報をやっていたのが石崎嵩人。ふたりともBackpacker’s Japanの立ち上げメンバーです。
ひとつの鬼ごっこのために一年かけて研究して、20回以上の実験を繰り返して(雨で中止になって満を持して翌年)成功することができた、そのアドレナリン体験からまだ抜けられないでいるんです。今でも、みんなで作ったものが誰かの役に立って、褒められて、感謝されるというものを作り出そうとしている、質も拡散力ももっと高めていきたい。この原体験がその学生体験にありますね。
ー本間さんは、資本主義社会や現代社会が構築してきた主権的な世の中の構成員にならずに新しい人間らしい価値観を高め、生き方をしていこうという改革をサービスで提案していらっしゃる。もともと本間さんは社会に対してどのような疑問や問いかけを持っていたんでしょうか?
僕は元々ハッピー野郎なので、変革を求めていないんですよね。それより、この枠組みの中で、より良くするためにはどうしたらいいのか。休日である週2日ではなくいわゆる平日も含めたすべての週7日を楽しむために、アウトローになるのではなくメインストリームを変えて気持ちよく生きていくために自分たちでルールを生み出したらいい、というのが僕の個人的なスタンスです。
資本主義社会から抜けることが難しいなら、その力を利用して何ができるのかを考えたほうが面白いし、自分たちの考え方や生き方をアップデートするしか手はない。資本主義というのは結局ルール、仕組みでしかないし、そこ自体に幸せなんてあるはずがないですから。活かすも殺すも使い手の問題です。人間の自由を削減するのではなく、自由を担保するためには教育の力で僕たちの頭をアップデートして行くしかないんです。そういう意味で、情報発信を通してどう考え、生活し、生きていくかを見直した時に、僕がいいと思ったものやこっちの方が楽しいよって言いつづけることなんですよね。
ー本間さんは<サステナブル>をどのように捉えていますか?
僕の中のイメージは<輪・和>があるということ。循環している状態がサステナブルだと思います。プラスチック製品を使っちゃダメとかそういう話じゃなくて、自分たちの行動や活動が次に繋がっていくっていうことです。
ーSANUでは建築に間伐材を使用したりなどエコな試みを多く取り入れていますが、ジェンダーや非正規雇用、ビーガン、コンポストなどはどのように取り組んでいらっしゃいますか?
やれることがありすぎるので、どこからやるのかっていう話を今まさにしているところです。専門家を呼んだコンポストも考えていますし、どんな電力がいいのか、エネルギー効率や環境保全的な視点を踏まえて、本当に価値のある方法を見出して生きたいと考えています。
ジェンダーでいうと、僕らのスタートアップはすでに半分が女性。情報的にも社内は完全にフラットにしていて、見られない情報は基本的にないという状態。人事も建築もデザインもファイナンスも基本的にはすべてオープンで輪になっているサステナブルな状態を作り出そうとしています。基本的なベースであるのがフェアネス。それが侵害された時に、誰かが修正できる状態っていうのを組織として作っています。
<Backpacker’s Japan>ではティール組織論を2年半前ぐらいにインストールしました。マネージャーや決定権を持つ人間がいなくて全て自分たちで提案するという組織論なのですが、それを<SANU>にも取り入れていきたい。それも次第にアップデートされるべきで、組織に頼るのではなく、基本的には1人で生きられる人たちが集まっているのが組織であるというのが、次の形になっていくと思っています。働くほど思想的にもファイナンス的にも技術的にも知識的にも、みんなが独立していくような状態です。そういった人たちがチームを組むからこそ強いし、かつ自由であるっていうのが次の組織論ですね。
ー1人ひとりがパワフルになることで倍々にスケールしていくことができますね
そう、そしてそれをつなげるのがビジョンです。自然と共に生きることを信じている人たちが作ってるのが<SANU>ですから。僕らの挑戦としては、ある程度のスピードで構築して、かつグローバル展開を目指しています。それがむちゃくちゃ難しいんですが。
ーその共通言語はなんですか?
一番大事なのは、実際に我々が何を成してきたかですね。自然と共に生きるって言いながら自然をぶっ壊してたら、何も伝わらない。言葉数が少なくとも、作り上げたものが自然の回復につながっていることを丁寧に積み上げれば、次に入るスタッフは必ずそこを見ると思っています。サステナビリティに正解はまだないですから、今後スケールして、30年で一兆円規模、ダイナミックに手加減しないでいきたいです。
マジョリティへのタッチポイントを持てるブランドへ
ー<Backpacker’s Japan>は、都市に住む若者をターゲットにしたサービスで大成功されましたが<SANU>ではターゲットも大きく広がりました。海外も視野に入れて、マイノリティに対する取り組みをお聞きしたいです。
少し前にある尊敬する経営者の方に<SANU>の事業の話をさせていただいたときに「すごく面白いけどSANUの2nd Homeを本当に必要としているのは、都会でめちゃくちゃ忙しくしているシングルマザーとその子どもたちかもしれないね。彼らが享受できる価格帯・サービスまで落とすことができたらSANUはもっと面白くなるんじゃないか」とアドバイスを頂いたんですよね。先輩経営者の視点の広さに触れて、視界が開ける想いでした。
そこでも気づいたんですが、どうしても自分の生活水準で物事を構築してしまいがち。そこから一歩飛び越えて、いろんな人たちにアプローチしていくのが我々のプランです。NIKEのように、トップアスリートからお茶の間まで届くようなものでありたいんですよね。スニーカーを買うことで少し心が軽くなって歩いてみようかしら、と散歩する。この最後のアクションを取らせられるかどうかブランドの真価だとおもうので。我々としては、トップの人たちが応援しようと思えるブランドでありながら、なんでもない人が何かのタッチポイントを持てるブランドになるっていうのを狙っています。そうするためにはどうするかっていうのはこれから構築ですね。
ー本間さんがハワイのカウアイ島でサーフィンをしたとき自然の美しさに衝撃を受けたことが<SANU>のきっかけだとか
そうですね。ハワイも美しいですが、千葉の館山でも自然は美しいんです。みなさんが、少しずつでも自然の中に入って触れていってくれれば、救いになる場合もあればモチベーションになる場合もある。コンセントのつなぎ替えです。都市って基本的に人間が放電している状態ですが、本来、海とか山とか川のおかげで、インスピレーションや落ち着いた時間ももらうことができますからね。
ーサービスのアウトプットの美的センスはどこに依拠しているのでしょう?
僕は残念ながら、自分自身はセンスがないんですよね。でも、センスがある人と話すことはできると思っています。根本となっているのは、会津若松の裏磐梯の曽原湖にいつも釣りに出かけていたことかな。中学生の当時はなんとも思わなかったけど、今思うと景色が本当に美しかったなと。
パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードも自然の中に入っている人は何が美しいかを知っているという言葉を本に書いているんですけれど、自然の中ってバランスも色合いも無限で、倒木すら景色の中でのバランスがとれている。自然の中で何が美しいかを知るということを教えてもらったおかげで、空間でも、組織論でも事業計画でも、そこにバランスがとれていないと完成されていないのがわかるんです。それは定食屋でも高級ホテルでも同じで、バランスがとれている店にはきちんと人が入っている。その美しさのルールは言語化できないですが、それを感じられた原体験が自分の武器だと思っています。
ー今何が気持ち良いのかという座標軸がバランス感覚として染み付いているんですね。良いものづくりと熱量にも言えるのでしょうか
人間が作るものは、想いの総量でほとんどの質が決まると思ってます。それは時間ではなくて、そこに誰かが思いを突っ込んでいるかどうか。人間誰しも、思いがそこにあるかないかは感覚でわかるんですね。そういう意味で、思いの総量っていうのは僕の中ですごく大事にしていますね。それが組織論にも繋がりますし。小さなミスはどうでもいいから、ココに想いを込められたかどうか、が大切なんですね。
気持ちよさのバランス感覚で今まではよかったけれど、SANUは拡大していくにあたり自分の身体ひとつでは世界に伸びていかないので、それをどうしていくのかがこれからの挑戦だとおもっています。
本間貴裕/起業家
2010年、「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年、古民家を改装したゲストハウス「toco.」(東京・入谷)をオープン。その後「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、「Len」(京都・河原町)、「CITAN」 (東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営する。現在は株式会社SANUのFounder 兼 Brand Director。福島県会津若松市出身。サーフィンとスノーボードがライフワーク。
Instagram @hilo_homma