
物を買う、発言する。そんな私たちの小さなアクションが社会を動かしていきます。まずは、身の回りや世界にはびこる社会問題に目を向け意識を変えることから。様々な執筆家を迎え、それぞれの気づきから考えを促します。
「サステナブル日用品からはじめよう。日常からはじめる循環のつくりかた」BambooRoll 松原佳代
私がサステナブルな暮らしを考えるようになったはじまりは、2019年夏に米国ポートランドへの移住だった。そこから1年も経たずして、2020年のCOVID-19の感染拡大が起こり、同年、「Black Lives Matter」のプロテスト、さらにはオレゴンの山火事に、米国で遭遇した。
移住から始まった暮らしの変化とこれらの想定外の出来事は、これまで資本主義、消費社会のど真ん中で生きてきた自分自身の暮らし方を見直すきっかけとなった。また山火事により、自分の住む街が世界でいちばん空気の悪い都市になった10日間に、いまのこの環境と社会が子どもたちが大人になった時に存在するのか?という危機感が生まれた。
そして、今年の1月に、私はサステナブルな暮らしのきっかけづくりとして、日本で竹でつくったトイレットペーパーを売り始めた。

https://bambooroll.jp/
ポートランドが教えてくれたこと
ポートランドは農地や自然ととても近いコンパクトシティとして知られる。都市部の無秩序な拡大を防ぎ、「都市成長境界線」が1979年から存在し、長い年月をかけてこの環境が守られてきた。クラフト文化も盛んで、とても生産に近い街だった。また、スリフトショップ(寄付された衣類などを販売するリサイクルショップ)も多く、リユース、リサイクルが暮らしの一部にある。
「つくる責任つかう責任」という言葉がSDGsの目標にあるが、「つかう責任」つまり消費者としての責任をこの街で暮らすようになって強く感じるようになった。また農地などの生産地と都市部が近いポートランドに住むようになって、つくる場所やつくる過程に思いを馳せる機会も増えた。想像できないこと、身近でないことに心を寄せるのは簡単ではないだろう。だから、そして生産に近い場所で暮らす人が増えることは、少なからず地球環境に対して、優しくあることに繋がると思うようになった。

つかう責任とつくる責任は対局のようでいて繋がっている
COVID-19や山火事を経て、暮らしの中に循環を生むことをビジョンに仲間と3人で環境をテーマに会社を始めることになる。私は米国ポートランド、ひとりはエストニア、ひとりは日本の長野。COVID-19により簡単に国境を超えることができないため、リモートで事業づくりを始めた。
それまでインターネット業界に長くいた私はインターネットのロングテール感、つまりそれぞれの趣味嗜好やアクションで選択ができて出会いが生まれるオンライン事業が好きだったから、そういうものをつくってきた。運営者である私は、一人ひとりが自分の暮らしをつくれる場と機会をつくることに徹して、方向性を強く示したり、深く介在したりすることはしてこなかった。
だが、今回、環境をテーマにしようと決めた時は話が違った。環境破壊は不可逆だ。だから、ある程度アクションを促す方向性がある。そんな思いからも、場に徹するのではなく、暮らしに介在する日用品を玄関まで届けることにしたのだった。そして、日用品の中でもなくては困るのに、最もなんとなく消費されているトイレットペーパーを選んだ。シャンプーや歯ブラシならお気に入りのブランドがおそらくあるだろう。トイレットペーパーは?シングルかダブルかは答えられたとしても、そのメーカーや原材料まで答えられる生活者は多くはないと思う。
消費しないに越したことはない。が、いきなり明日からリユースの布で拭いてくださいという提案をしたとしても、それに切り替えるのはなかなかの勇気がいるに違いない。環境を気にしたちょっとした変化、そして少しの節約、暮らしの中に実現するための提案が、竹で作ったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」となった。成長がとにかく速く、二酸化炭素を待機中に固定する量が大きいとする竹を原材料につくるトイレットペーパーを定期的に届けるサービスだ。定期便だから使う量も気にかけられるだろうと。日常の小さな変化が、大きな変化に繋がる、そんなきっかけになればと考えている。

日常に循環のある暮らしを。
今の暮らしの中での消費の負荷はどこにかかっているだろうか?多くは別の時間や場所、つまり未来や別の地域にかかっている。だから、ひとりひとりの暮らしやコミュニティぐらいの単位から、その循環のある暮らしが生まれていく、みんながそんな日常を送れたらいいと思い、私たちのビジョンは「”還す”を未来のあたりまえに」になった。
最初はひとりでから、ひとつの場所から、ひと時から始まるものかもしれないし、それでいいと思う。だけど、大地は繋がっているから、社会は繋がっているから、その変化が連なっていくような、暮らしの中とコミュニティに「循環という仕組み」をつくることがきっと大事なのではないか。
バンブーロールはトイレットペーパーではなく定期便までがバンブーロールだ。定期便にあることにこだわったことも、暮らしの中に新たなサイクルを置く仕組みにしたかったのかもしれない。それを続けているうちに暮らしの中の別のアイテムや、家族の行動に変化が生まれることを願っている。
国は炭素削減の具体的な目標を発表した。2021年になり企業の炭素削減の動きも加速しているように思う。制度や枠組みを整備しても、企業がいくら努力をしたとしても、それを動かし、定着させるのは、生活者ひとりひとりだろう。それは私自身も含めて。
だから生活している皆さんに伴走しながら少しずつ、だけど地球の変化に間に合う速度で、一緒に進んでいきたいと思っている。
松原佳代
1979年生まれ。お茶の水女子大学人間社会科学科心理学専攻を卒業。コンサルティング会社、編集ライター業を経て、2005年面白法人カヤックに入社。2015年に独立し(株)ハモニア(現みずたまラボラトリー)を設立。スタートアップのPR体制構築などを事業として展開する。2017年に(株)カヤックLivingの代表取締役に就任。2018年に移住スカウトサービス「SMOUT」を立ち上げる。2020年に環境スタートアップ・おかえり(株)を創業。2021年よりおかえりの最初の事業として、竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を開始。
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