
物を買う、発言する。そんな私たちの小さなアクションが社会を動かしていきます。まずは、身の回りや世界にはびこる社会問題に目を向け意識を変えることから。様々な執筆家を迎え、それぞれの気づきから考えを促します。
「果てない廻りを紐解くことで導く未来の調和」モデル/アーティストNOMA
時には野生児と呼ばれ、宇宙の神秘や自然のすばらしさを説くモデルであり研究家の NOMAさん。近著『WE EARTH 海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで 知る地球のこと全部』では、宇宙から始まる循環の営みを通し、私たちが生きる世界の本質に向き合っています。人類は地球の支配者ではなく営みの中のちっぽけな要素。すべての生命を象る壮大な事実に考えを巡らせるように、一人ひとりが自らの視点を動かしてものごとを見つめる。それは、うごめく社会を光へと促す重要な一歩です。
138億年前、無の世界から誕生して今も加速膨張中の私たちの宇宙。
私たちが暮らす惑星<地球>が多様な生命に溢れているように、どうやらこの宇宙も多様な元素に溢れているらしい。それらがバランスをとりながら踊るように宇宙を果てしなく廻り続ける姿は、森羅万象の摂理に則った姿なのか。
エネルギーの限りに光り続け年老いた恒星は、徐々に冷えて終わりへと向かったり、はたまたその最期を謳歌するように巨大な爆発と共に幕を閉じる。そうして宇宙に撒かれた年老いた星のかけらたちは、また新たな廻りと融合によって星の誕生へとつながる。
星の終わりは星の始まりでもあり、果てしない廻りの環の中でバランスをとりながら存在している。 東洋思想の考え「陽極めて陰生じ、陰極めて陽生ず」、ヘラクレイトスの「万物は流転する」、 福岡伸一博士が掲げる「動的平衡」。星の最期を思うと脳裏に浮かぶこれらのメッセージは、 星のサイクルに留まらず、私たちが暮らすこの地球、はたまた私たちの心身をはじめとした、 万物の摂理のように感じる。
近年、気候危機の話題でもよく耳にする様になったティッピングポイントもしかりだ。 46億年の歴史をもつ地球では、様々なエレメンツ(元素)や生命が、宇宙の星々と同じように均衡を保ちながら廻り続けている。歴史が積み重なって導かれた環境、そしてその環境に伴って築かれた分厚い生態系。その営みによって、人類は初めて”いのち”の糸を紡ぎ続ける機会を得られた。
窒素、酸素、水素やミネラル、あらゆる生命、光……。 エレメンツと生命の循環は見事なパズルのように、完璧で繊細なエコシステムを構築した。 この環境があってこそ、私たち人類は繁栄することが叶い、今では人も人間社会も繊細に脈動し続けるエコシステムの一部であり、地球の一部なのだ。
いのちを支える空気や水、植物、自分に人生の機会を与えてくれた父や母に至るまで、全てが地球環境のバランスあっての存在だ。 それらが簡単に途絶えたり、破壊されたりするものでないように感じるかもしれない。もしくは当たり前すぎて、その存在すら考える機会も少ないかもしれない。 けれども、このシステム無くして生命が育まれやすい環境、すなわち多様な生態系はもちろん人や社会の健康も維持されない。
それをあらかじめ知ることができていたら、負担をかけるような選択肢を人は取り続けてきただろうか。傷つくと知り赤信号は渡らないはずだ。未知のウィルスに感染しないように、私たちはマスクを着ける。けれども、見えにくく(直接被害に合わない限り)体感しにくい地球のエコシステムへの配慮は、当たり前のように意識されては来なかった。小学校で九九を教えてくれるのもありがたいが、地球人として私たちが知るべき故郷(地球)の歴史や、エコシステムのバランスを丁寧に学ぶ機会も重要だ。
学びに関して考えだすと、ふと思い返すのが佐賀で過ごした小学生の頃だ。 学校に行くまでの道のりは毎日が大冒険だった。 花や虫、生き物に触れ、五感で世界を感じながら、歩く時間がただ楽しかった。知らない通りに入って思わぬ発見に嬉々としたり、気づいたらよそのお宅の庭に入り込んで居たり......そんな調子でようやく学校に着くもんだから、いつも40分くらいは遅刻していて、毎日のように怒られていた。
学校に向かうまでの大冒険の道のりはあんなに楽しいのに、着いたら叱責されて(当たり前だけど)、授業では黒板に書かれた内容をひたすら写して、面白いとは思えない話をたくさん聞くふりをして……子供ながらに何じゃこりゃとシラける日々が多かったのを覚えている。 帰り道では小川に寄って、学校では「外人やんか外人!」と喧しく絡んでくる生徒たちとも一緒くたになってザリガニを捕りながら、場所によって変わる水質の観察を楽しんだり、標本用に植物を採取したりしてごきげんで家に着く。早く大人になって自由に世界を楽しみたいと外の世界に想いを膨らませる日々だった。
現在、温室効果ガスの削減を目指して、日本も世界各国も様々な言葉を掲げて努力をしている。 人の活動による二酸化炭素の排出を削減して行くことは必須だけれど、二酸化炭素も炭素も敵ではないし、それらの存在自体が地球温暖化の直接的な原因ではない。自然界の摂理の上で成り立った、地球のエコシステムのバランスを人類が崩したことによって、私たち人間社会の生活が脅かされるような状態になったのを忘れてはいけないのではないだろうか。
かけ算の九九同様に、私たちが生きる世界の摂理や地球環境について丁寧に学ぶことができれば、「カーボンニュートラル」や「脱炭素」など、炭素からしたら不可思議なネーミングで叫ばれる温暖化対策に一生懸命になる必要もなかったかも知れない。
私たちが共に一部として生きる惑星地球のことを知ることは、自分たちの未来にとってポジティブな選択肢を日々の中から導いてくれる。
そして更に嬉しいことは、日々の中に溢れる壮大な浪漫への気づきや地球人ならではの喜びと幸せが増してゆくことだ。 それは日々の中でどんな風が吹こうとも、私たちの心に豊かな潤いを与えてくれる。
NOMA(ノーマ) モデル/アーティスト
日本人の父とシシリア系アメリカ人の母の間に生まれ、自然豊かな佐賀県で環境への愛を育む。大学では国際情勢や国際環境法を学び、在学中のインドへの一人旅を機に世界各地を巡り執筆を始める。アロマやフィトテラピー、食養、地球環境に関する資格を所持。植物と宇宙を中心とした自然科学への造詣を持ち幅広い分野で発信や登壇出演を重ねながら作品創りを継続。環境省森里川海アンバサダー、グリーンピースオーシャンアンバサダー。書籍『WE EARTH 海・微生物・緑・土・ 星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部』がグラフィック社から発売中
Instagram @noma77777
Artwork_ Niky Roehreke
Editorial Direction_ Little Lights