ものづくりの背景に敬意を払いクリエーションを讃える。サステナブルをテーマに、アーティストや起業家をはじめ想いを共有する挑戦者たちを紹介。彼らのヴィジョンから自分らしいスタイルのヒントを見つけ出します。
タトゥーシールは自己肯定のメタファー。opnner岩谷香穂がエンパワーする自分らしい選択肢
日本独自の文化を築く入れ墨は反社会的勢力と相関する側面が強く、現代も孤高の存在と化しています。ファッションタトゥーが普及した今でも公共浴場やプールでは入場が制限されているさまは、社会の大雑把な線引きの中で、個人の思いや主張が守られない現状の象徴のようにも感じられます。現代のタブーであるタトゥーに着目し、個人の主張への応援としてタトゥーシールのブランドとサービスを展開するのがopnner(オプナー)の岩谷香穂さん。些事を感受して自然な形で溶け込ませる彼女の繊細なアートワークは、個が群となった時に蹴落としてしまうような、大味な社会に取り残された人々を優しく包み込む不思議な力があるようです。EQUALANDのシーズナルプリントに寄せたアートワークに込めた彼女の想いとはなんでしょうか?クリエイティブ・ディレクターの安部真理子、エディトリアル・ディレクターの佐藤由佳行った鼎談では、アートワークのクリエイションから、エシカル消費についてなど現代の幅広い興味に広がっていきました。
安部真理子(以下M)岩谷さんとはARTIDA OUDのコラボレーションで出会って、もう3年になりますね。インスタグラムを拝見しているんですが、岩谷さんってすごく書くのがお上手で、人の心を掴む投稿だなっていつも思ってます。ちょっとドラマチックな感じがしてすごく好きです。
岩谷香穂(以下K)ありがとうございます、難しいのが苦手なんです。
佐藤由佳(以下Y): 今回、EQUALANDとワンピースとTシャツのパターンをコラボレーションしました。ワンピースはどのようなご自身の体験やインスピレーションを反映させましたか?
K:最初の打ち合わせの時にすぐ思いついたんです。太陽が照っていて風も通っていてカラッとしてるようなイメージがあって、それが阿部さんが考えていたテーマともすごく似ていたんです。イメージしているものを絵に描ければ、ぴったりなものができるかもと思いながら感覚的に作り上げました。
M:今シーズンは、ペルーの砂漠の中にポツンとある湖がテーマで。それを岩谷さんにお伝えした時に、もともと持っていらしたイメージとも合ったのかもしれません。そこから、オアシスのトロピカルなイメージとか、テラコッタや水瓶のようなモチーフを考えていました。色々なデザインを何枚も描いていただいたんです。
K:実はすごく気持ちが絵に現れるタイプで。冬場は紺色ばかり使ったり、銀色を使いがちだけど、あたたかくなり始めるとこういう明るい感じになるんです。
Y:具体的な旅の記憶に基づいているんですか?
K:憧れだけなんです。インドやヨーロッパに行く予定だったんですけれど、全部行けなくなってしまって。でもなんとなく壁が漆喰で街の中を歩いている、みたいな絵は何度もイメージしていて、まるで行ったかのような感覚で色彩がこの場所にありそう、というように描いてます。このワンピースを着て公園とかを風を感じながら闊歩したいです。
M:今回大きく描いていただいたのでやりやすかったんですけど、絵柄をどうリピートさせるかをプリント屋さんと調整するのが実は結構大変でした。岩谷さんは、坂田さんと結構息があっていましたよね。
K:実は、最初お話いただいた時は、もうモノを作りたく無いよっていう気持ちがあって悩んでいたんです。でも余剰在庫から新しいものが生まれるのを聞いて、すごい心的にぴったりだなと思ってお受けしたたんです。
Y:モノを作りたくないのは、環境問題への思いがあったんですか?
K:環境問題もですけれど、自分の身近なところでモノが増えることがあまり好きじゃないんですよね。余って捨てたものって一瞬なくなったような感覚になるかもしれないんですが、なくなりはしない。クリスマスのシーズンにいっぱいものを買い込んだのに、食べなかったりだとか。ストレス解消にモノをいっぱい買ったけど、全然使わなかったとか。それがあるだけで精神的に割と病むなって思って。もの作るのも疲れが色々あったりしたんで。ちょうどそのタイミングだったんです。
M:岩谷さんの周りの方々も結構そういう感じですか?
K:そうですね。服をあんまり買わなくなったとか。今あるものでなんとかなりそうっていうのは多いかもしれないです。もっと自分で選べる、という意識になりました。
M:今回のエコバックは、シャツの残生地から選びましたよね。
K:生地選びから行かせてもらいました。ブランドが発注したのにそのまま使わずに残っちゃってる在庫を工場さんが抱えていらして、それを活用しようと。実は、エコバックもそればっかり溜まっちゃうからもういらないっていう話をして。でも残生地なら良いのかなと。
Y:このエコバックのアートワークについて、ストーリーを教えていただけますか。
K:この絵も、私の中ではワンピースの延長線上なんです。お気に入りのテラコッタだけで絵を描きはじめて、どこからこれが生まれたのかは分からないんです。白い土の中にいて、太陽に照らされてたら何が浮かぶだろう、みたいな……。
Y:すべて岩谷さんの中から浮かび上がってくるものをすくいあげて形になっているんですね。岩谷さんの描画に特徴的なミニマルなラインは、どのような画材を使って描かれているのか気になります。
K:画材は色々使って描きました。色鉛筆とかパステル、コンテとかかな。あとは墨とかも試しました。平筆や細筆も使って。でも太い筆が一番合ったなっていう感じで、クレヨンではなかったし。やっぱり水で薄めない感じで書くのが合ってました。
Y:Water is to Us のドネーションプロジェクトに当初から参加されてたんですよね。
M:ARTIDA OUDでもローンチの時から岩谷さんにドネーションを一緒にやってた経緯もあり、岩谷さんとご一緒したかったんです。内容を色々と社内で練っているうちに、プロダクトを限定してドネーションっていうより、ブランドのすべてを循環させたいという方向が明確になり、最終的に全商品の売上の1%が寄付されるようにしました。お客さんがちゃんと寄付先を選ぶことができて、参加できるというところが重要だなとと思い、そうさせてもらったんです。
プロジェクトタイトルをあれこれ考え直したんですけど、最終的にWater Is to usにしました。語源は英語のことわざ、Water is to fish, land is to humanです。魚には水を、人間には陸をっていう意味ですが、水って魚だけじゃなくて全部の生き物に必要だよねと。
Y:坂田さんのインタビューをさせていただいた時に、地球が気候危機で壊れていくのは次の世代のために止めなきゃいけないことだとか、いろんな災害につながるからとかすごく色んな理由があるけれども、人間の体って70%が水分だから水の源である海を大切にしないと、結局自分に還ってくるっていうつながりに、ハッとしました。先のことって考えづらいけど、自分の身のことだと想像つかない人にも説得力がありますよね。
ちなみに、ドローイングのアイデアはいつもどこかに書き留めていたりするんですか?
K:タトゥーシールはいつもその時の気分で描いてるんですけど、提案しているものが良いとか悪いとかっていうどちらかの側面に傾いてると良くないなと思って作ってて。タトゥーって悪いイメージの反対になんともない無の感じがあると思うんですけど。そもそも良いも悪いもあんまりなくて。提案したいものを増やして、使う人が選択できるようになったら良いなって思ってます。選択肢を増やしたいなって思ってて。そのために自分ももっとタトゥーの色んな側面を知って、伝えていけたら良いなって。
M:タトゥーシールだけでも、発展していますよね。
K:まだまだありそうって思っちゃう。自分の中でも発展途上な感じで。
最近アイヌの文化に触れる機会があって。15歳ぐらいの成人儀礼の時に、口を大きく見せるために炭をつけるんですけど、現地の人はほんとに嫌だったって言ってて。タトゥーに対して、そういうしきたりのせいで良いイメージが無いみたいで。そういう人たちのイメージを変えるというか、こういうのもあるよって思わせるにはどういう風にしたら良いのかなって割と考えてます。わたしは、あんまり物申したいみたいな姿勢はなくて。やっぱりタトゥーが好きなので、こういうのもあるよっていうのを地道にやる方が合ってるかなと思います。
Y:岩谷さんはタトゥー入れてるんですか?
K:あります。右腕上部の内側に線が入ってます。このタトゥー自体に家族の思い出と新しい人と出会うことは自分の地平を広げるみたいな意味があって。そうだったって、リマインドみたいな感じです。
Y:わかりやすいモチーフじゃないから、ニュートラルな感じに保てますよね。
K:好きも嫌いもないから、が入れるには一番良いかなと思います。好きな柄を入れると嫌いになるかもって。
Y:変にジャッジはされたくないみたいなね。使う人が自分で選んでほしいっていうことですね。
K:めちゃくちゃ投げやりなんですけど、選択してくれみたいなのが。
Y:“やってやろう感”が無んですよね。
K:絵でそういうのが現れてたら、うるさいよって思いそう。ストーリーはあるんですけど、それをわかりやすい感じで提示することは無いと思います。
M:すごい今っぽいと思います。
K:やってやれる人に憧れてるんですよ、できないから。
Y:イトウナツミさんのような若い世代の方と話していても同じように感じます。自分は自分のプライベートスペースがあって、自分はこう思うからこうっていうのは静かにあるけど、それを他人に絶対押し付けない。でも、他人がどう思おうとそれはそれで仕方が無いんじゃないかっていう、許容している感じ。
M:すごい柔軟というか。岩谷さんもタトゥーシールアーティストだけどそれにこだわらず、今回もプリントを描いてくれた。やってみようかなっていうのが素敵ですよね。自分に何かがあるから、できると思えてるんだろうなって思います。
Y:岩谷さんはタトゥーシールを通してメッセージを伝えていると思うんですけど、問題に直面した時にどう消化したり、作品に取り入れたりされていますか?
K:割と世界がどうってなったとしても、それに対する一歩って身近なことだと思うんですよ。今回もドネーションだからすごい良いなって思います。サステイナビリティに関しても、ゴミ問題って今までも提示され続けてたこと。捨てたものがどうなってるのとか、手に余るもの以上を得ることをしないだけで、環境に良さそうなんじゃないかなって。その得た知恵を使って、使っていきたいですよね。知恵を使うことで心が豊かになるじゃないですか。今回、EQUALANDのあるものを使うっていうコンセプトがずっと響いてて。そういうものを積み重ねていけたらいいんじゃないかな。
M:無理をしてまで色々やるっていうのは私できなくて。もったいないから水だしたらすぐ止めなさいとかって昔からあったし、それをこまめに実践することの方が、需要はある。とってつけたようなサスティナブル論みたいなトレンドみたいなのは違和感を感じます。
K:行いに名前がついてしまって、身動き取りづらいみたいな。
M:すごい苦しいなと思うんです。サスティナブルウエアって言わなきゃいけないし、そういうからにはいろんな質問を浴びせられるから、それに答えていかなきゃいけない。でも、自然体でやることって良いでしょって私も言っていこうって思いました。
Y:お互いを責め合うみたいな構図になっちゃダメですよね。
K:モノと一対一に向き合えるゆとりみたいなのは常に持っていたいです。やっぱり作るからには、大切に使いたいし、作りたい。。
M:作る責任、買う責任ってあるじゃないですか。日本はまだまだ買う側の意識が追いついていないのかなと。作る側は意識してやっている所も多いけれど、そのことに気づいていない人に伝えていかないとダメだって。
Y:消費活動が造り手に対するメッセージとなって行くっていうのは、先日の佐久間裕美子さんのTHINK PIECEでもありましたけれど、一人ひとりの行動で変わっていきますから。今後広げていきたいと思っていることは?
K:引き出しがいっぱいある人になりたい。去年はアウトプットが多すぎて疲れたので。そうなった時に、学びがなさすぎるなと。同じ引き出しを何度も開けてっていう感じだったので。引き出しが多いと、アウトプットに深みがでるなと思いました。知れば知るほど、好奇心が湧けば湧くほど。今年は学びの年にしたいですね。
岩谷香穂
ポートランド旅行をきっかけに海外と日本でのタトゥーの関わりに疑問を持ち、「タトゥーというのは体がかわろうと人生を共存できる最高の励ましであって、永遠のジュエリーである」というメッセージを伝えるべく、2015年opnnerをスタート。オリジナルのアートワークやグッズの他、ブランドとの取り組みなどを幅広く行っている。
Instagram @poxn
https://www.opnner.com/
Photographer_ Natsumi Ito
Editorial Direction_ Little Lights